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広島高等裁判所 昭和41年(ネ)185号 判決 1967年2月27日

控訴人(附帯被控訴人) 坂田耕一こと 坂田末松

被控訴人(附帯控訴人) 土井安衛

右訴訟代理人弁護士 小林寛

主文

控訴人の本件控訴を棄却する。

原判決中被控訴人敗訴の部分を取消す。

控訴人の請求を棄却する。

控訴人の当審における請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

≪証拠省略≫によれば、次の事実を認めることができる。

昭和二七年頃、控訴人は訴外土井証券株式会社に証拠金代用証券として原判決添附別紙その二記載の株式を差入れて信用取引を行っていた。右会社は経営が悪化し、同年末頃には倒産を免れ得ない情況に陥ったため、控訴人は右会社の代表取締役である被控訴人に対し、右会社の控訴人に対する前記取引上の債務について個人として責任を負うよう強く要求した。その結果、昭和二七年一二月二五日控訴人、右会社及び被控訴人個人の三者間に、被控訴人は右会社の控訴人に対する前記取引上の債務を重畳的に引受け、右会社が控訴人より預かっていた前記株式を一年内に返還し、且つ前記信用取引より生じた債務は一年内に分割支払うことを約し、甲第一号証の代用預証を作成した。その後右会社は昭和二八年に入り倒産し、右会社の第二会社として訴外弥山証券株式会社が設立せられ、右会社の債権債務一切を承継した。控訴人は昭和二八年一〇月頃弥山証券株式会社に対し前記債務の履行を請求したが、同会社もまた営業不振のためその請求に応ずることができなかった。

以上のとおり認めることができる。≪証拠判断省略≫。なお、甲第一号証には「社長土井安衛」の記名が抹消せられ「土井安衛」の記名押印がなされているので前示重畳的債務引受契約が控訴人と被控訴人との二名間において締結されているかの如く見えるけれども、同号証の記載中に「一、返納期限一ヶ年トス、但右期間中上下変動ニ依リ売ツナギ自由ノコト」の文言があること及び弁論の全趣旨に照らし、甲第一号証は前示債務引受契約が控訴人、右会社、被控訴人の三者間に成立したとの前記認定の妨げとなるものではない。

そこで、被控訴人の消滅時効の抗弁について判断する。

土井証券株式会社の控訴人に対する前記取引上の債務が商事債務であって五年の時効により消滅することは明らかである。そして、前記重畳的債務引受契約の当事者は前示認定のとおり、控訴人、右会社、被控訴人の三者であり、右契約は右会社の附属的商行為であるから、商法第三条第二項により右契約全部に商法が適用せられることとなる結果、右契約により被控訴人が重畳的に引受けた債務は五年の商事時効により消滅するものといわねばならぬ。前記認定のとおり被控訴人の引受けた右債務の履行期限は、債務引受契約の日より一年後である昭和二八年一二月二五日であるから、右債務の五年の消滅時効は同日の経過とともに進行し、昭和三三年一二月二五日限り完成することは明らかである。

控訴人は、消滅時効の中断事由として控訴人がしばしば被控訴人に対し右債務の履行を請求した事実を主張する。しかし、本訴提起の日が昭和三八年七月一九日及び同月二三日であることは記録上明白であるから、たとえ控訴人が本訴提起前に被控訴人に対し裁判外において本件債務の履行を請求したとしても、本件債務の消滅時効は中断せられるものではない。なお≪証拠省略≫によれば、被控訴人は昭和三八年春頃控訴人に対し乙第一号証の借用書記載の債務の弁済として金二八、〇〇〇円を支払ったこと並びに右金員の支払は本件債務と何等関係の無いものであることを認めることができる。≪証拠判断省略≫。従って、被控訴人より控訴人に対する右金員の弁済が本件債務の時効の利益の放棄と認め得ないことも勿論である。

そうだとすれば、前記重畳的債務引受契約により被控訴人が控訴人に対し負担する債務は、五年の消滅時効の完成によりすでに消滅しているものといわねばならぬ。

したがって、控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、すべて理由がないから、原判決中控訴人の請求を認容した部分は失当としてこれを取消し、その部分の請求及び控訴人が当審において拡張した請求はいずれもこれを棄却すべきものである。被控訴人の本件附帯控訴は理由があるけれども、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却する。

よって、民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本冬樹 裁判官 辻川利正 浜田治)

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